蓮華紋と人身御供の差からみるマナコストデザインの話

f:id:doordoor-hs:20190331111648j:plain

ハースストーン2018年冬の拡張「天下一ブドゥ祭」のカード発表において多くの人の頭に?が浮かんだカードが一枚あったのではないでしょうか?

 

それが人身御供というカード。

 

ハースストーンを最近始めた方にはなじみが薄いかもしれませんが、ワイルドには蓮華紋というカードがあります。

効果については冒頭のサムネ画像をみてください。

 

コストは同じなのに人身御供は味方のミニオン破壊というデメリット要素をもっています。

 

「やっぱりドルイドストーンですか?」
「なんで劣化版?」

と思った人は少なくないはずです。

 

そこで、この2枚のカードを題材にした考察記事を書いてみたいと思いました。

 

『あるコストのカードはどれくらいの働きをするのが妥当なのか。』

上記に関して考察を記し、ハースストーンにおけるマナコストデザインの指針を明らかにすることを目標とします。

 

「マナコストデザインって、それはカード開発をする運営陣が把握していればいいのでは?」という考えもありそうかなと思いました。

しかし、マナコストデザインを正しく把握することは、ハースストーンの上達を目標に取り組みたいプレイヤーにとって以下のような場面で役立つと考えます。

 

  1. 発見などで各カードの働きを正しく評価できる。
  2. 相手がランダム召喚などで未知のミニオンを召喚したとき、トレードしたほうがよいか、無視した方がよいかを正しく判断できる。

 

このように考えると、人身御供というカードを単に劣化版蓮華紋とスルーしてしまうのはもったいないかなと感じ、このブログ記事を書きました。

今回の考察記事は以下のような全6章の構成ですすめていきます。

 

第1章 標準スタッツとマナコスト

最初は一番基本的なミニオンのマナコストについて記してみます。

 

〇マナのミニオンはどれくらいの働きをするのかという観点から「マナコストを踏み倒す」というのがどういう動きなのかを具体的に表現することを目標とします。

 

ミニオンにおいてマナコストと効果の関係を考察するのに避けて通れないのが「標準スタッツ」という考え方です。

 

〇マナの標準スタッツがいくつなのかを調べるには、効果を持たないバニラミニオンを参照するのが通例です。

 

これについては、他サイトなどでも詳しく解説されているので、ここではさらっと並べていきます。

 

※は代表的なバニラミニオン

0マナ=1/1

   ※ウィスプ

   ※スノーフリッパーペンギン
1マナ=1/3 or 2/2

   ※ダイアモール

   ※魔法のワタリガラス
2マナ=2/3 or 3/2

   ※リバークロコリスク

   ※ブラッドフェンラプター
3マナ=3/4 or 4/3

   ※スパイダータンク
4マナ=4/5 or 5/4

   ※チルウィンドのイェティ

 

標準スタッツは一般的に以下の式に概ねあてはめることができます。
(式1)マナコスト×2+1=攻撃力+体力

 

以上がバニラミニオンのマナコストとスタッツの関係性になります。

では、なにかしらの能力を持つミニオンの場合はどうなるか。

一般的には以下の式にあてはめることができます。 

 

(式2)マナコスト=標準スタッツ+効果
(式3)マナコスト=標準スタッツ-デメリット

 

<例1>

ミニドラゴン・メカニック

(4マナ 2/4 雄叫び: 2/1のメカ・ミニドラゴンを1体召喚する。)

 

スタッツが何マナ相当なのかが微妙ですが、式1よりだいたい3マナ相当とします。

また、1マナのトークンミニオンを召喚するので、これを1マナ相当の効果とします。

 

すると

マナコスト43マナ相当のスタッツ+1マナ相当の効果

と(式2)にあてはまります。

 

<例2>

 沼地のドレイク

(3マナ 5/4 雄叫び:相手の陣地に猛毒を持つ2/1の「ドレイクスレイヤー」を1体召喚する。)

 

相手の陣地に1マナのミニオンを召喚することを1マナ相当のデメリットとすると

マナコスト34マナ相当のスタッツ-1マナ相当のデメリット

と(式2)も成立していることがわかります。

 

以上は左辺と右辺が「=」で結ばれていますが、今回の連載ではこれが「<」になったとき「マナコストを踏み倒している」と呼ぶことにします。

 

第2章 雄叫びと断末魔のマナコスト

味方のミニオンを破壊するという効果から真っ先に思い浮かぶのは断末魔との組み合わせでしょうか。


本章では、断末魔という能力の特性について確認します。


で、実は今回の考察をするにあたりとても都合のよいカードがあります。それは初級エンジニアと戦利品クレクレ君というカード。


同じマナコスト、同じ効果(カードを1枚引く)であるにもかかわらず、初級エンジニアは雄叫び戦利品クレクレ君は断末魔です。


そして、この2枚のミニオンはスタッツに違いがあります。


初級エンジニアのスタッツは1/1、戦利品クレクレ君のスタッツは2/1です。


第1章にて記した式、「マナコスト=スタッツ+効果」を踏まえると、初級エンジニアの効果(雄叫びで1枚ドロー)は、戦利品クレクレ君の効果(断末魔で1枚ドロー)より強いというコストデザインになっています。


雄叫び>断末魔になっている理由は以下の通りです。
雄叫び→任意のタイミングで発動できる

断末魔→任意のタイミングでは発動できない

    沈黙や変身で効果が発動しないまま破壊される場合もある。


ではもう一つの例をみてみましょう。


<例>

・元チャンピオン

(5マナ 1/1 雄叫び: 5/5の「期待の新人」を1体召喚する)

・デビルサウルスの卵

(3マナ 0/3 断末魔:5/5の「デビルサウルス」を1体召喚する。)

 


召喚するトークンミニオンはどちらも5/5で、本体のスタッツに大きな差はありません。しかし、断末魔のデビルサウルスの卵は3マナ、雄叫びの元チャンピオンは5マナとひらきがあります。


以上より

① コストと効果が同等なら断末魔のほうがスタッツが高い

② 断末魔の方が支払うマナコストが優遇される場合が多い。

ということがいえます。


断末魔は任意のタイミングで発動できないから雄叫びより弱いコストデザインになっていると記しましたが、では生贄の契約や人身御供を使うとどうなるでしょうか?

それは今後の章でふれていきます。

 

第3章 ミニオンをバフするマナコスト

さて前章までは、「蓮華紋や人身御供とあまり関係ないんじゃないの?」といわれてしまいそうな内容になってしまいましたが、今回からこれらのカードの能力に踏み込んでいきます。

 

そのときに、前章までの内容を参照していくので、第1~2章は決して無駄な時間ではないはずなのでご了承願います。

 

今回は「バフ」について

 

バフ効果は対象のとりかたによって大きく2種類に分けられます。

順にみていきます。

 

①単体に対するバフ

<例>

・王の祝福

(4マナ 呪文 ミニオン1体に+4/+4を付与する。)

 

・菌術師

(5マナ 2/2 雄叫び:隣接するミニオンに +2/+2を付与する。)

 

ここで4/4は4マナの標準スタッツと概ね同じです。

また菌術師は本体スタッツ2/2とバフの点数の合計4/4を合わせると6/6になり、5マナの標準スタッツと概ね同じです。

(標準スタッツについては第1章参照)

 

つまり単体に対するバフはバフする点数と同じ標準スタッツのミニオンを召喚するのと概ね同じというコストデザインになっています。

 

②複数のミニオンに対するバフ

個人的にはバフAOEなどと呼んでいることもあるのですが、複数のミニオンに対するバフのマナコストについて考察するのは実はちょっと難しい事情があります。

 

それは、この効果の最も基本的なカードが蓮華紋であること。

 

蓮華紋のマナコストを考察するための比較対象として一番適当なのが蓮華紋になってしまうのです……。

 

これはしょうがないとして、複数のミニオンに対するバフの標準的なコストデザインとしては1/1を味方の全ミニオンにかける効果を1マナ相当と定義します。

 

では、第1章のコスト踏み倒しの定義と①で述べた「〇マナのバフ=〇マナスタッツのミニオン召喚」から考えると、蓮華紋はミニオンが3体以上いればマナコストの踏み倒しになります。

 

もともとAOEはコスト踏み倒しが起こりやすい種類のカードですが蓮華紋については特にハードルが低そうに見えます。

 

では、人身御供ではどうでしょうか。

 

第1章の「マナコスト=スタッツ-デメリット」という考え方から、蓮華紋よりは多くのミニオンが盤面にいないとコスト踏み倒しが発生しないようです。

 

人身御供のデメリットは具体的に何マナ相当なのでしょうか?

それについて次章で考察していきます。

 

第4章 ミニオンを破壊するマナコスト

第3章では蓮華紋と人身御供の効果のひとつである「バフ」について書きました。

今回は人身御供が持つもうひとつの効果「味方のミニオンを破壊」について書いていきます。

 

まずは、味方のミニオンに限定せずに、「破壊」という効果のコストをみていきます。

 

<例1>

暗殺

(5マナ 呪文 敵のミニオン1体を破壊する。)

 

暗殺はミニオンを破壊するという効果の最も標準的なカードだと思います。

(敵の)ミニオンを破壊する効果は5マナ相当と考えます。

 

<例2>

魂抽出

(6マナ 呪文 ミニオン1体を破壊する。自分のヒーローの体力を3回復する。)

 

「回復力」というカードを参照すると、3点の回復は1マナ相当の効果なので以下の式があてはまります。

マナコスト6=5マナ相当の効果(ミニオン破壊)+1マナ相当の効果(3点回復)

 

魂抽出からもやはり(敵の)ミニオン破壊が5マナ相当であると導けます。

 

それでは、ウォーロックのクラスカードにたまにみられる味方のミニオンに対象を限定される破壊はどうでしょうか。

 

<例3>

鮮赤の上戸

(1マナ 1/1 雄叫び:味方のミニオン1体を破壊し+2/+2を獲得する。)

 

第1章の「マナコスト=スタッツ-デメリット」を参照します。

雄叫びが発動すると鮮赤の上戸のスタッツは3マナ相当になります。

 

マナコスト13マナ相当のスタッツ-デメリット

と計算すると味方のミニオン破壊のデメリットは2マナ相当になります。

 

<例4>

大食のプテロダックス

 (4マナ 4/4 雄叫び:味方のミニオン1体を 破壊し、2回適応する)

 

パラディンの1マナ呪文に「適応」というカードがあるため、2回適応を2マナ相当の効果とします。

 

マナコスト44マナ相当のスタッツ+2マナ相当の効果(2回適応)-デメリット

と計算すると、やはり味方のミニオン破壊は2マナ相当のデメリットとなります。

 

では人身御供は蓮華紋よりも2マナ分、バフの対象ミニオンを増やさないと損?

これだけで評価すると人身御供はかなり弱そうですが……

 

第5章 キューブロックにみる破壊シナジー

これまでの章で基本的な効果について、その特徴とコストデザインを記してきました。

 

基本的な効果については概ね、考察が完了したと考えているので、今回は応用的な考察をしていきます。

 

人身御供の考察をするにあたって、真っ先に思いついたデッキがキューブロックでした。

 

キューブロックの主な戦略は以下の通りです。

・憑りつかれた従者の断末魔でドゥームガードやヴォイドロードという高コストの悪魔をコスト踏み倒し召喚する。

・肉食キューブでヴォイドロードを増やして盤面制圧、もしくはドゥームガードを増やしてコンボリーサルを狙う。

 

断末魔……第2章で断末魔は任意のタイミングで発動できない点がデメリットであると述べましたね。

 

ここで暗黒の契約というカードがでてきます。

 

キューブロックにおける暗黒の契約の強さは高い回復力よりも、低コストでミニオンを破壊できる点だと思います。

 

味方のミニオンを破壊するという効果がデメリット扱いであるため、暗黒の契約は低コストになっていますが、これを逆手にとって断末魔ミニオンを任意のタイミングで破壊することを可能にしています。

 

暗黒の契約はアグロ相手の場合は回復手段としても有力でしたが、回復と破壊の効果をもつ呪文だからといって、「魂抽出」を暗黒の契約の替わりとして採用することはできないのです。

 

魂抽出では、肉食キューブでドゥームガードを破壊したターン中にすぐに肉食キューブを破壊できません。

 

そのまま、相手にターンをわたせば、沈黙をかけられてしまうかもしれません。

(第2章でふれた断末魔の大きなデメリットがきいています。)

 

キューブロックは断末魔のデメリットと暗黒の契約のデメリットをうまく打ち消すような戦略といえます。

 

後半はキューブロックにおけるもう一つのマナコスト踏み倒しギミックにふれていきます。キーカードは憑りつかれた従者

 

憑りつかれた従者のデメリットは、デッキからランダムな悪魔を招集するため、弱い悪魔が出てくる可能性があるという点です。

 

これを回避するために、キューブロックでは、悪魔の採用をドゥームガードとヴォイドロードという高コストで強力なものに絞っています

 

憑りつかれた従者のマナコストを分析すると、

 

マナコスト6=2マナ相当のスタッツ+招集効果

 

であるため、5マナ以上のミニオンを招集できればコスト踏み倒しに成功します。

 

キューブロックは憑りつかれた従者が必ずマナコスト踏み倒しになるような構築になっているのです。

 

第6章 蓮華紋と人身御供の差とは?

いよいよ最終章です。

これまでの章で述べた内容を総括し、 この2枚のカードにおけるマナコストと効果の関係性を記していきます。

 

===結論===

蓮華紋と人身御供を比較すると、人身御供の方が強い動きができる可能性が高い。

 

逃げ道を作る様で申し訳ないですが、当然ながらカードプール、メタ、構築、試合展開によります。 

 

doordoorがこの結論に至った理由は、ハースストーンには、極端な構築にしたり、デメリットを打ち消しあったりして強いコンボを生む戦略があるからです。

 

「極端な構築」、「デメリットを打ち消しあう」戦略のひとつは第5章で取り上げたキューブロックがそのひとつです。

 

ここでは、他の例をみてみます。

 

<極端な構築の例>

=ビッグスペルメイジ=

 

キーカードはドラゴンの憤怒と魔法のワタリガラス。

 

デッキからランダムにひいた呪文のマナコストを参照して効果を発動します。

 

この2枚のカードのデメリットはひいた呪文のマナコストが低かったら、弱い効果となる点です。

 

それを考慮し、ビッグスペルメイジでは低マナの呪文を一切採用しないという極端な構築をとっています。

 

<デメリットを打ち消しあう例>

追い詰められた歩哨→カワキヒゲの鎧職人 

 

追い詰められた歩哨のデメリットはもちろん、相手陣地にトークンを並べてしまうこと。

 

カワキヒゲの鎧職人のデメリットは、相手陣地にミニオンが少ないと効果が薄いこと。

だからといって、相手にミニオン展開を無償でゆるすわけにもいかないこと。

 

この2枚のカードを順に召喚することで、支払ったコスト以上の装甲を得るコスト踏み倒しの動きを可能にします。

 

相手陣地にならぶミニオンは追い詰められた歩哨が召喚した1/1トークンなので、旋風剣などとあわせて除去しやすいというのも利点です。

 


 

フラットな目線でみるとデメリット効果もゲームの進行に影響をあたえるひとつの要素と単純化してみることができます。

 

蓮華紋はゲームの進行に与える要素がバフひとつであるのに対して、人身御供はバフとミニオン破壊のふたつです。

 

同じマナコストでもゲームの進行に与える要素の数が異なることにもっと着目する必要がありました。

 

単にデメリットがあるから弱いと切り捨てるのではなく、その効果が試合展開に与える影響を冷静にみていくことがマナコストデザインを理解するカギになると考えました。

 


 

あとがき

 

ハースストーンはゲームです。

 

ゲームの楽しみ方はいろいろとありますが、そのひとつに「純粋に勝ちを追い求める」というものがあると思います。

 

今回の連載企画が勝ちを追い求めようとする人の一助になればよいなといったところです。